善子は
ダークチョコでコーティングされたケーキを選んだ。フォークで切れ込みを入れて、口に運ぶ。しっかりとした苦味の後に、よく知る酸味がひろがった。「おいしいね」「ねー」みんなから口々に、ケーキの感想が聞こえてくる。みんなとても満足そうだった。切れ込みを入れた断面からは、オレンジのソースがどろりと垂れていた。門の外に出ると、すっかり日が傾いていた。涼しげな風が、ゆったりと吹いている。立派な外壁に、善子はもたれかかった。外の空気を吸いたい、そういって出て来てしまった。うまい言い訳は、都合よく出て来てはくれなかった。友達、ってなんだろう。ダイヤとの会話で、そう言えなかったことを思い出していた。思えば、昔からそうだった。透明な糸を織り込んだような、目に見えない膜みたいな。なにかの外側から、内側のみんなを見ている。自分だけ違う、ぼんやりとした感覚。そんな気分が、たまに襲ってくる。みんなでいるのは、楽しい。でも、正直まだ息が詰まることがあった。一緒に楽しみたい気持ちとは、裏腹に。そういう日はいつも不安で、みんなの中に溶け込めない自分の不器用さを呪った。もしかしたら部活が一緒なだけで、友達じゃないかもしれない。一方的に友達だと思ってるだけかもしれない。そう思うと、心が凍るようだった。
「人間って、むずかしいのね」ふいに、黒猫が通りかかる。少し痩せていて、毛並みがいい。黄色の瞳が、気まぐれにこちらを向いた。善子はゆっくりと、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「アンタもひとりなの?」黒猫は近づいてきてはくれない。善子はじっと見ていた。手を伸ばしたら、なにかが変わってしまうような気がした。
「よーしーこーちゃーんっ」衝撃、背中から。ルビィに後ろから抱きつかれ、よろけそうになる。Brightest Melody 渡辺曜 コスプレ衣装ふわりと舞った髪が、善子の頬を撫でた。鼻先をくすぐる、ふんわりとした匂い。きっとルビィがつけたヘアコロンのものだろう。その匂いに、あたたかな温もりに。やわらかく包み込まれて、気まぐれな春が来たみたいだった。
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