サビに劣等上等 ロック コス衣装入る直前でストップのサインを送る。「Thanks、レイヤ。今日は一旦終わりにしましょう」マイクに口を近づけ、ガラスの向こう側、スタジオのレイヤに声をかける。レイヤは長時間の練習を終え、肩を上下させている。ワタシの声を聞くと、ベースを壁にかけ、スタジオからゆっくりと出てくる。「こっちこそありがとう、チュチュ。最後まで付き合ってくれて。」レイヤの視線は、ワタシの頭を越えて後ろのソファの方へと向く。超ビックサイズのソファには、右からロックとマスキングが並んで眠っている。「No problem!最強の音楽を完成させるためよ、何だってするわ」ネット上で音楽を聞いていたとき、偶然見つけたこの曲。初めて聞いたその時に、いわゆる、運命のような感覚を覚えたのだ。機械のvoiceによって造られたこの歌が、まるで生きた歌のようにさえ感じられた。次はこれを歌うわよ!気付いた時には、既にメッセージはグループへと送信され、4つの既読が付いていた。「お疲れさまです、チュチュ様、レイヤさん!」「ありがとう。っと.......ぷはー!」レイヤはパレオから手渡された水を飲み干すと、崩れ落ちるように椅子に座る。ステージの上では崩れないその顔が綻ぶのを見れるのは、RASのメンバーとタエハナゾノくらいのものだろう。椅子の背もたれにかかっていたタオルを顔に被せ、数秒ほど唸る。「何回やっても納得いかないんだよね、サビ前」なんでかなあ、という風に声を溢す。ワタシも同じところで引っ掛かっていた。そもそも、ベースとボーカルは相性が良いとは言えない。溢れ出す激情に歌声を乗せるボーカリストに対して、劣等上等 レイヤ コス衣装ベースは曲全体の調律を整えるコントローラー。感情と自制心の狭間でPerfectな歌を生み出す天才。それが和奏レイだ。今日の歌声は、彼女にしてはいささかAnn naturalなものであると言わざるを得なかった。しかし、本人でさえ原因の分からないのものはどうしようもない。「悩みでもあるのなら吐き出してしまいなさい?最強のperformanceに悩み事は必要ないわ」パレオが頷きながら、ワタシ達の横を通り抜け、ソファで眠るロックとマスキングの肩を揺する。
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