ほら香澄、行こう?そういえば、父さん新作パン焼くって言ってたよ

 香澄と感動のお花見 大和麻弥 コスプレ衣装並んで傘を指し、商店街に続く道を歩く。傘がなければもうちょっと近付けるのになぁなんて考えて、この梅雨空がますます恨めしくなる。香澄はといえば、そんな私の気持ちなど知るはずもなく、時折現れる水溜まりを楽しそうに飛び越している。同い年なのに子供みたいで、ホント可愛い。「香澄、一緒に帰ろうって誘ってくれてありがとね」少しだけ離れた背中に声をかける。香澄は星の描かれた紅い傘をクルクル回しながら笑顔で振り向いた。「どういたしまして!」「6限終わって時間経ってたし、一緒に帰れると思ってなかったよ。香澄も日直だったの?」「えっ!?あぁ、うん!あ、じゃなくて先生に頼まれごとしてて!」一度肯定したことをすぐ否定して、別の理由を答える香澄。目線は上の方を忙しく動いてる。いや、わかりやすすぎ。ていうかなんでそこまでして誤魔化そうと…。いや、まさか…ね。「もしかして、待っててくれたの?」「そ、そうだけどそうじゃないってゆーか…あ、パン!さーやのお家のパン食べたくなっちゃって!」---なんだ。「あ、なるほど、パンね。じゃあうち寄ってきなよ」気持ちを隠すことは得意だったはずだ。いつも通りの笑顔になってたはずだ。それなのに。自分でも驚くほど冷たい声が出た。気付いた時にはもう遅くて。「…うん」怯えたような、そんな返事が返ってくる。競演のステージ 宇田川 あこ コスプレ衣装ごめん、香澄。悪いのは私だから。貴女にそんな顔して欲しくない。貴女が哀しむようなことなんて何もない。私が勝手に期待しただけだから。私が勝手に落胆しただけだから。「ほら香澄、行こう?そういえば、父さん新作パン焼くって言ってたよ」今度は意識していつも通りの声をかける。「…そうなんだ。楽しみー!」明らかにムリしてる口調だったけど、そこは突っ込まない。気持ちを切り替えて、香澄に笑顔を向ける。香澄もいつもより少し固い笑顔を返してくれた。雨は、まだ降り続いていた。

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