夢ならいいのに。情熱、伝わる想い 倉田 ましろ コスプレ衣装偶然目にしてしまったその光景。偶然耳にしてしまったその会話。私以外に向けられる貴女のはにかんだ笑顔。夏のうだるような暑さがウソのように心が冷えていく。胸に血の塊でも詰め込まれたような息苦しさで呼吸がうまくいかない。---どうして。砕けた意思をなんとか掻き集め、その場から駆け出す。遠くに見える夏空は、私の心と同じ、くすんだ灰色をしていた。香澄を特別に想うようになったのはいつからだろう。諦めた夢にもう一度手を伸ばしたあの日、夢と一緒に掴んだものは香澄の右の手だった。引っ張り上げてもらった時に恋に落ちたのか。既に恋に落ちていたのか。いつからか感じていた胸の熱は、水に落ちた絵の具のように私の心に広がり続けた。心地よい温もりに心は弾み、ただの日常がより色鮮やかに見えた。---見えていた。校舎を飛び出し、駆ける。空から一日中降り注いだ熱気は未だ逃げ場なく彷徨い、風を伴ってまとわりつく。その風に乗って届く黴臭い匂いは、これからやってくる嵐を予感させた。気付いた時には痛いほどの雨粒が打ち付けていた。傘を持たない私はシャッターの降りた寂れた店の軒先で雨粒を凌ぐ。心安らぐ音色とは程遠い、雑踏の中かと錯覚するほどの耳障りな音。空も私を憐れんでくれているのだろうかと安っぽい感傷に浸る。…いや、そんなはずはない。これは嘲笑だ。不意に蘇る先程の光景。それは驕っていた私への当然の報いだった。結成からライブを重ね、隠しきれない秘密 広町 七深 コスプレ衣装私たちの知名度はそれなりに上がっていた。毎回ライブに来てくれる熱心なファンもいた。その中の一人が、先程の子だった。ライブの後、必ず香澄に声をかけに来ていたのを覚えている。嬉しそうに香澄に語り掛けるその子の頬が紅潮していたのは、ライブの熱の所為か。はたまた想い人を前にした緊張の所為か。いずれにせよ、当時の私にとってはどうでもいいことだった。
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