門構えの外でその声を聞くことになるとは露ほども思わなかった

 「お帰り虹ヶ咲 中須 かすみ コスプレ衣装なさいませ、恋お嬢さま」少し離れていただけなのに、その声はとても懐かしい。きっと、当たり前のようにあったからなのでしょう。でも、今日はその声が秋風に揺れている。「お誕生日、おめでとうございます。直接伝えられること、幸甚に存じます」「あなたも来て欲しかったです。せっかく誘ったのに」「そうは参りません。恋さまとご友人の歓談の邪魔などできようはずがありませんから」「もう……」軽く膨れてみせても、それでどうこうなる人ではないこともよく知っている。とても真面目で働き者で、優秀な元・葉月家の使用人。門構えの外でその声を聞くことになるとは露ほども思わなかった。「入りましょう?サヤさん」「よろしいのですか?」「入ってください」そうさせたのは、紛れもなく私。今、ここには私とチビしかいない、がらんどうの家。「楽しい誕生日をお過ごしになれましたか」「ええ、それはもう。大切な人と過ごす時間というのは何をしても楽しく感じるのですね」「そう思えるご友人と巡り会えたということ、素晴らしいことと存じます」かのんさんからもらったティーバッグをカップに入れる。サヤさん、あなたにはやらせません。所在なさげにしても無駄です。お湯くらい注げますよ。「綺麗、ですね」「お掃除、頑張っていますから。サヤさんのようにはできていないかもしれませんが、見様見真似でやっています」「恋さま」「言わないでください。あなたのような方を無償で働かせるなどできるはずがありません」お互い、頑固者なのでしょう。このやりとりは何度もしました。そしてそのたびに、私は誓うのです。「また、胸を張ってあなたを雇える日を必ず迎えてみせます。ですから、その時までどうか待っていて」「……承知しました。ひたむきな恋さまのお言葉ですから、お待ちしております」本当に、もどかしい。ここまでしてくれる人がいるのに。だからこそ気持ちが新たになる。 でも、久しぶりに会えたからかな。ぽろりと気持ちがほころんで。「だけれど、ひとつだけ。今日一日だけ、わがままを聞いてくれますか」「何なりと」「一緒にいてください」そんな資格は私にはないのかもしれない。だけど、強ばった肩にそっと手を置いてくれる。「お側におります。恋さま」「ありがとう、サヤさん」 大切な日だからこそ、虹ヶ咲 宮下 愛 コスプレ衣装大切な人と一緒にいたい。今日改めて思いました。かのんさんたちと同じように、サヤさんも私を支えてくれる大切な人なのです。そんなサヤさんだからこそ。信頼できる人だからこそ。「サヤさん。聞いてほしいことがあるのですが」「はい」「私、今日改めて思ったことがあるのです。私の音楽で、結ヶ丘の、Liella!の役に立ちたい」

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