待つしかない男の悲しみよ

 何も3期生 不知火フレア コスプレ衣装頭に入ってこない午後の授業が砂のように流れ落ちていき、帰りのホームルームもつつがなく終わる。「きりーつ、れーい」定番の挨拶で一日の学生業務は終了だ。「それでは上がって貰って結構。お疲れ様」担任の科学教諭がやけに通りの良い声で締める。ガサツなタイプだが女生徒にはそこがかわいいだなんだとモテている。今日もチョコを貰ったのだろう、羨ましいことだ。どうにも落ち着かなくてホームルーム中に帰る準備は済ませてあった。バッグを肩に掛けて横を見やれば、彼女は椅子に座りなおして荷物をまとめていた。急かしたいわけでもないが、なんだかどうにも手が遅い。チラチラとこちらを窺っているような気がする。桜凛月。我がクラスの委員長。誰にでも愛される性格。それは教師からの信頼だったり、クラスメイトからの安心だったり、委員会で共に仕事をすれば信用のあまり任され過ぎてしまうくらいに。きっと家族からだってそうだろう。愛される理由は努力を怠らない生真面目さ、嘘の付けない不器用さ。「あ、あんま見んとってよぅ」俺の視線に気付き、あたふたする。動きが少し早くなった代わりにノートを出したり入れたりと進まない。急かす気は全くない。彼女のきっちり結われた、性格を表すように放課後まで崩れない二本の三つ編みが揺れるのを見るだけで時間を過ごせる。赤いブレザーによく似合っているなぁなどと思っていると、小声で言われる。「あの、ちょっと用事があるけん、さ、先に降りとってくれん……?」なるほどと納得する。一緒に帰るというのが既に囃し立てられる行動だが、校舎内でそれをやればどれほど注目されるか。彼女には堪えるだろう。俺は頷き、先に自転車置き場まで行くことにした。通り過ぎていく教室の空気は甘ったるくてネットリと重たい。というのはチョコレートの甘さなどではなく、貰える当てのない男連中が醸し出す空気のせいだと思う。今日はバレンタインだ。ワンチャンを期待して帰れない、男同士で駄弁りつつも心の中では諦めている。去年までは俺も同じだったので分かる。このあとはきっと男だけでカラオケかゲーセンだ。ホロライブ さくらみこ コスプレ衣装しれっと帰っていく俺から何かを感じ取ったか、恨みがましい視線が追ってくる。女子はと言えば、どんどん帰っていく。校内に渡す相手が居るならば既に動いているから。相手がバイト先だったり学外の可能性もある。つまり、教室に残っていても望み薄。待つしかない男の悲しみよ。 ――視線を振り切り教室を出る。廊下に出れば少しは空気を軽く感じた。そこらに居るのは女子が多い。このあと誰に渡すだとか、渡してきただという会話が聞こえてくる。恋する少女は美しいと言うが、じゃあ恋に恋する少女は一番可愛いんじゃないかと思う。何やらいつもの廊下がキラキラして見える。ふわふわした空気の中を泳いでいき、そのまま下駄箱で靴を履き替え校舎を出る。自転車置き場の柱に寄りかかると、これまで意識したことがなかったのだが俺たちの教室がちょうど見上げられる位置だった。

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